アーキビストの眼:電子記録の性質(1)
今号からコラム執筆の担当に加わりました、白川です。よろしくお願いいたします。
最近何かと話題になる電子記録の管理・保存の問題ですが、話題になるには理由があります。電子記録の性質には「アーキビストの眼」から見て色々と厄介な点があるのです。問題は主に4つあります。今回はその1つをご紹介したいと思います。
まず、その量の膨大さが挙げられます。例えば、Eメールは、世界で年間300億以上も送信されているということを皆さんはご存知でしたか[※1]。電子文書は、紙と違い物理的に目に見えない上にお金がかからず、簡単に変更や複製、そして保存ができるため、作られ放題になっているのが現状です。そのため、大量に作られた電子文書でハードディスクがブラックホール化してしまっている方が多いのではないでしょうか。その中から必要な情報を適時速やかに探すことは難しく、多くの時間を要します。2005年にアメリカのモーガン・スタンリー社が、法廷で要求された電子メール記録を期間内に開示できず16億ドルもの罰金を支払ったことは有名です。これは、記録情報管理体制が整っていなかったためです。
企業などのvital records(基幹記録)は、組織内にある全情報・文書のたった7~9%だけとされています[※2]。記録管理を今から始めるなら、まず、この7~9%の基幹記録から正しく管理・運用することをお勧めします。そのためには、この7~9%を摘出する必要があります。その第1ステップとして、まず記録管理の原則を設け、この原則に沿って組織全体の情報統制を評価します。ARMA Internationalでは、「説明責任」・「透明性」・「完全性」・「保護」・「コンプライアンス」・「可用性」・「保存期間管理」・「処分」の8つを記録維持管理の原則(「GARP原則[※3]」)としています[※4]。その後、リスク分析を実施し記録情報に優先順位をつけることで、組織の核であるvital records(基幹記録)がどういった記録であるか認識することができるのです。
残りの91%は管理せず野放し状態、もしくは全て廃棄してしまっても良いかというとそうではありません。これについては、次回、第2の問題点である「安全性」についての記事でお伝えしたいと思います。
※1 Swartz, Nikki, The Information Management Journal 40:5 (Sep/Oct 2006), p36. Cf. Cox, Richard, Personal Archives and a New Archival Calling, 208, Litwin Books, p208.
※2 Datskovsky, Galina, 2012年5月21日学習院大学で行われた国際シンポジウム「記録管理の専門職はなぜ必要か」基調講演より。
※3 ‘Generally Accepted Recordkeeping Principles(「一般的に認められた記録持続管理の原則」)’.
※4 ARMA International, GARP, http://www.arma.org/garp/index.cfm (2012年6月5日アクセス)。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。