アーキビストの眼:『残す』=『選ぶ』
大英博物館のブログに、ポストカード(絵葉書)が世界中の歴史を物語ると書かれた記事が投稿されています(*1)。携帯電話、Eメールにインターネットが日常になっている現代社会で、絵葉書はすでに時代遅れで消え行くものと思っている方も少なくないのではないでしょうか。
土産物の市場から消えつつあり、確実に「絶滅」へと向かっているようです。そのため、大英博物館では、「絶滅」しつつある絵葉書を、正式に収集公開の対象とすることを決めました。
お客様から、「どれを残せばいいのでしょうか」というご質問をいただくことが多々あります。何を残すべきかという質問に、100%正しい答えはなく、また、答えはひとつではないと考えます。
例えば、絵葉書を歴史的価値があるとみなし、アーカイブズとして「残そう」と考える人は多くないでしょう。
しかし、大英博物館は、絵葉書をアーカイブズとして「選び」、「残す」ことに決めたのです。
「選んだ」理由を、ブログの中で次のように述べています。「場所、人や文化遺産は、脆弱ではかなく、紛争時や社会変化、また経済の発展などの影響をいとも簡単に受けやすい。そのため、手遅れになる前に、我々は、こういった記憶のアーカイブズを開始した」。(*1)
学習院大学史料館では、昨年の春、「大正の記憶-絵葉書の時代」という展示が催されました。公式ブログには、「当時の絵葉書はその時起こった出来事を写しとったものが多く、今日の旅先での思い出などとしての役割と大きく異なり、報道メディアとしての役割を担っていたことに大きな驚きを感じます」と記載されています(*2)。
まるで絵新聞を読んでいるかのように、絵葉書が、近100年間の日本社会の移り変わりを現すのを見て、絵葉書も立派な「アーカイブズ(歴史資料)」になるのだと感嘆したことを思い出します。
資料を「残す」ためのスペースおよび資金には限りがあります。そのため、「選ぶ」ことは、資料を整理・保存する上で、最も重要な要素だと言っても過言ではありません。
アーカイブズ学では、この「選ぶ」作業を「評価選別」と呼び、様々な方法が国際的に論じられ続けています。
何を「選ぶ」か、どのように「選ぶ」のか、なぜ「選んだ」のか。
この3つは、アーキビストの永遠の課題と言えるでしょう。
*1 St John Simpson, The British Museum, Collecting Postcards from Middle East, 28 June 2013,
http://blog.britishmuseum.org/2013/06/28/collecting-postcards-from-the-middle-east/
*2 学校法人学習院総合企画部広報課公式ブログ、「大正の記憶-絵葉書の時代」~平成24年度学習院大学史料館常設展より~、2012年4月11日、
http://www.gakushuin.info/2012/04/post_243.html
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。