地方公文書館と専門職
2015年5月21日、超党派の議員で構成される「世界に誇る国民本位の新たな国立公文書館の建設を実現する議員連盟」(会長・谷垣禎一自民党幹事長)は、大島衆議院議長に対して早急に新たな国立公文書館の建設予定地を検討するよう要請しました。また日本アーカイブズ学会などの学術団体は、2011年4月施行の「公文書管理法」見直しに向けた提言をまとめようとしています。このように近年国レベルでは、ハード・ソフトの両面で公文書館制度の整備を求める声が高まっています。
公文書館制度を円滑に運用するために必要な要素は、(a)歴史的に重要な公文書を収集・公開するための仕組みと、(b)この仕組みを担保する専門職制度です。(a)については、国や地方で着々と進んでいるといえるでしょう。しかし(b)については、以前から導入の必要性が指摘されてきましたが、いまだ制度として確立されていません。
公文書館の専門職には、歴史的素養だけでなく、アーカイブズ学などの知識と高度なコミュニケーション能力が求められます。しかしアーカイブズに関する法律は、専門職の資格・要件についてこれまで定めてきませんでした。たとえば「公文書管理法」には、専門職の資格に関する規定はありません。また1987年に施行された「公文書館法」は、「当分の間、地方公共団体が設置する公文書館には、第四条第二項の専門職員を置かないことができる」と規定しています(「公文書館法」附則)。「公文書館法の解釈の要旨」は、この附則をもうけた理由を、専門職の養成制度がいまだ確立されていないからと説明しています。したがってほとんどの地方公文書館は、この規定を根拠に専門職を採用していないか、有期限の非常勤職員を雇用するにとどまっているのです。
なお「公文書館専門職員実態アンケート調査集計結果〈最終版〉」(全国歴史資料取扱機関連絡協議会『記録と史料』24号、2014年3月)によれば、地方公文書館の雇用形態別の職員数は正規40.8%・非正規59.2%であり、専門性の高い業務を非正規職員が担当している実態が浮かび上がります。また専門職の確保については、「増員もしくは確保の予定なし」と回答した館が61館中35館にものぼっています。
このように国レベルで公文書館制度の整備を求める声が高まるなかで、地方公文書館における専門職の問題は依然として解決されているとはいえないのです。「国民本位」の公文書館制度を日本社会に根づかせるためには、専門職の問題について何らかの道筋をつけることが必要なのではないでしょうか。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。