一人の若者の死とアーカイブ
前々回のこのコラムで、「アーカイブは利益を生む」と題して、その具体的な場面を十ほど挙げました。今回は具体的に、その第一として、PL法(製造物責任法)対策に関する話題を提供します。これは、利益というより、本源的な、人の生き死に関わる問題です。
『産経関西』2009年4月22日に、[「償い」の形 JR脱線事故4年](2)体質 パロマ、という記事が載りました。2006年7月に発覚した、パロマのガス湯沸かし器で息子さんを亡くした父親が、会社に対して、
・事故を風化させないために資料室を設置すること
・過去に発行されていなかった社史を編纂すること
・全従業員に、第三者委員会の調査報告書を読めるようにすること
の3点を求め、2007年7月に合意させた、というものです。
消費生活用製品安全法が改正され、2007年6月 から施行になっています。この内容は、例えば事故を起こした製品が30年前であろうと、そのブランドが付いている以上は、当該会社が責任を持って事故を報告し、回収・修理の責を負う、というものです。PL法では従来から、製品は除斥期間の10年につき責任を負う、というものでしたので、この法改正は、PL法の上を行く、と言われています。
上記のパロマの資料室についても、製品や製造記録についてきちんとした保存・活用体制が組まれることと思われます。さらに収集された資料により編纂される社史は、単に周年の区切りがよい、とかオーナーの視点からの叙述、という意味合いを越えて、社のいわばシーケンス(改革の筋道)が書き込まれることが期待されるでしょう。それが出来なければ、亡くなった息子さんは、浮かばれないのではないかと思われます。
一人の若者の死と父親の運動を通じて、アーカイブを設置することになった会社の変身と今後に社会が注目しています。