アーキビストの眼:
『archives(アーカイブズ)』の定義の変化(2)
前に述べたとおり、1950年代以降、アーカイブズの定義はさらに変化します。その中で、アーカイブズ=(イコール)歴史的価値のある資料という概念が次第に定着していきます。
1988年に、James Gregory Bradsherは、著書『Managing Archivesand Archival Institutions』の中で、「記録は、評価選別時に、永続的な価値があると判断された場合、もしくはオフィスで(業務上なんらかの)必要があり保存される場合、アーカイブズの性質をもつようになる。それ故、アーカイブズのすべては「記録(records)」であるが、すべての記録がアーカイブズというわけではない。」と、述べています(※1)。
つまり、組織内で作成されたすべての文書が、アーカイブズ、すなわち「歴史的資料」となるわけではないため、どの記録にどのような価値があるのかを見定め、選別して保存する必要があるということです。
例えば、走り書きをしたショッピングリストは、通常、ただのメモ書きとして買い物が終了したら処分されますが、時には事実を証明するための立派な「記録」となることがあります。また、それが、歴史に残るような重要な事件を解決する証拠であったのだとしたら、歴史的資料として「永続的な価値」を持つことにもなるというわけです。
特に理由無く、とりあえず何でも保存されている方や、反対に、すべて捨ててしまっている方が多いのではないのでしょうか。
大切なのは、本当に必要なものだけを、必要な期間、良い保存環境の下で保存することです。 そのためには「アーカイブズ」として選別するための方針を決め、その選別基準・方法、すなわち「永続的価値」があると判断するための基準、を設ける必要があります。
その基準に従い、記録の価値を評価し、保存するものとしないものを決めていく作業を「評価選別」と言います。「アーカイブズ」として保存するもの以外のすべてを破棄するため、極めて責任が重い行為です。
そのため、選別の透明性が求められます。神奈川県立公文書館は、この評価選別基準をホームページ上で公開している日本では唯一の機関です(※2)。
※1. Bradsher, J. G., Managing Archives and Archival Institutions, 1988, University of Chicago, Chicago.
※2. 神奈川県立公文書館公文書等選別基準, http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f80178/p10600.html(2013年1月24日アクセス)
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。